• 『夢の島ノア』
  • 南の海のあるところに、ノア、という島がありました。
  • その島では、みんなとても仲良くくらしています。
  • サイや水牛やしかは、じまんの角で、畑を耕しています。
  • きつつきは、とくいの首ふりで、それはそれはみごとな穴をあけています。
    小鳥たちは、麦やとうもろこしやいちごやメロンの種を、
    遠くの島からはこんできて、ひとつぶひとつぶ穴にいれていきます。
  • ペリカンは、大きなくちばしに水をいっぱいいれて、水やりをかかしません。
  • 島に住む仲間たちは、本当によくはたらきます。
    みんなが力を合わせたので、ひまわりやとうもろこしは、とても大きく育っています・・・
    みんなは、ひとつずつ役割をもっています。
    きりんは、大きく育ったひまわりやとうもろこしを、かり取るやくめ。
  • ゾウは、大きな石の上で麦をひくやくめ。
    サルたちは、じょうずにパン生地を丸めています。
  • ひろばでわになって、仲良くパンを食べています。
    みんなは信じられないくらい仲良しなのです。
  • それにはわけがありました。
    みんなは、島に伝わるむかし話を、たいせつにしていたのです。
    どんな話かって?
    むかしむかし、こんなことがあったというのです。
  • ライオンとトラが、どっちが強いかで大げんかをしたときのことです。
    岬のまわりが、大きく揺れました。
    そのとき、地割れができて、ライオンとトラが落っこちそうになったそうです。
  • そのころ、島のみんなは、会えばけんかをしていました。
    それは、つまらない言いあらそいばかりでした。
    だから、島がしずみそうになっていることに、気づくものはだれもいませんでした。
  • ところが、けんかばかりしていたみんなの心に、ふしぎなことに、どこからか、声がきこえてきたのです。
    「手をつなぐんだ。わになるんだ。島がしずんでしまうぞ。」
  • 「え~っ!島がしずむだって?」
    ひるねをしていたふくろうや、いたずらをしていたきつねや、木の実を食べていたりすは、とてもびっくりしました。
    そして、島が大きくかたむいていることに、はじめて気がつきました。
  • 「島が・・しずむ・・・。どうしようも・・ない・・・。」
    年老いた犬は、静かにいいました。
    「しずまないぞ!。」ゴリラは、むねをたたいておこりました。
  • ネコは、目を真っ赤にして泣いていました。
  • 夜になってもねむれず、みんなは広場にあつまってきました。
  • しかし、だれも話しません。
    闇のなかで、岬のほうからきこえてくる、地鳴りの音だけがひびいていました。
    あるばんのこと、トラが、しわがれた声でいいました。
    「あの声は、神さまにちがいない。」
  • そのとたん、みんなのかおが、ぱっと明るくなりました。
  • みんなも、『そうにちがいない』とおもったのです。
    そして、だれからともなく手をつないだのです。
    すると、どうでしょう、ゆれていた大地が、ぴたっと止まったのです。
  • みんなは、抱きあって喜びました。
    そして、とてもしあわせな気分になったそうです。
  • それからというもの、もう、つまらない言いあらそいをするものは、いなくなりました。
    きょうも、しずかな夜がやってきました。
    島のなかまたちは、パンをおなかいっぱい食べて、すやすやとねむっています。
  • 夢の島ノアは、きょうも南の海に、しずむことなくうかんでいます。

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